中小企業診断士 谷口行利
(経営革新等認定支援機関 株式会社オリナス 代表取締役)
織り成す経営~企業承継期の経営
『労働力人口減少期、労働規制強化下での人事制度改革待ったなし!2』
労働力人口減少期に有効求人倍率が南九州でも1.2を越えるのが珍しくない。求職者(仕事を探す方々)が強い「売り手市場」になっている。職種をみても、有効求人倍率が1を切るのはもはや事務職ぐらいではないだろうか。
そんな中、筆者は地方中小企業が渇望感を持っている高校生や大学生の新卒採用者に焦点をあてた「こうすれば必ずいい人材が取れる!採用学」(横浜国立大学准教授 服部泰宏氏)を読んだ。「日本の人事部HRアワード2016」を受賞されており、基本的には十分に参考になり、活かしたい部分が多い。ただ、“あれっ?”と違和感を感じる部分もあった。
というのも、やはり大企業を中心とした人事戦略の中での正論展開で、従業員300名以下の中小企業それも地方のあるいはブランド力の弱い中小企業にとってみると、比較の土俵が異なることによる。規模や予算が異なるにせよ、ここで取り上げられている大企業の人事部は、大学三年生の3月から7~8ケ月間で良い人材を最終的に採用するために、エントリーする「候補者群(学生)」をたくさん保有することを目標に置く。つまり、ピラミッドの底辺を増やすために、マイナビやリクナビを始めとする就職支援サイトを通じて、あるいはOB,OGを通じて、波状攻撃的な広告や活動予算を組み、容易ならぬ努力をされる。
多くの「候補者群」を集めないと、いい人材が含まれて居ないという、まるで砂金採取の世界観になる。求人サイトからエントリーシートをたくさん入手し、複数回に渡る面接を行い、内々定や内定段階でも(企業のアピールにおいて)ポジティブな情報提供に終始するがゆえに、リアルな部分やネガティブな部分に後から気付かされ、求職者である学生と求人者である大企業との間に、いざ採用や採用後に「期待」「能力」「フィーリング」のアンマッチが生じているということだ。
やり方が悪いとか、アンマッチが生じるべきでないというのではなく、まさにローラー作戦というに相応しい大企業だからこそできる採用モデルであろう。
手前のことで恐縮だが、筆者が年商12億円の地方中小企業で、筆者自身が第二創業期をともに創り出す番頭として招かれ、No.2の取締役として採用の任にもあたっていたときは、そのような予算もなければ、同一の戦い方をしても仕方がないと考えた。
まず、経営トップと筆者は経営理念や期待する人材像、男女平等の賃金制度などを作り、採用戦略展開を刷り合わせ、筆者が陣頭指揮で動くことを基本方針として明確にした。
従って、経営層が恋愛と同じで、隠し事をしてはいけない。その上で、口説かないとフィーリングがあう同志人材は採れないと普通に考えていた。だから、率先して外の説明会に出席し、大学、高校にも説明に赴いたし、最初の面接も大切にした。
そこでは、最初の説明でも「仕事の内容はもとより、営業ならばそのプレッシャーに対して考え方やストレス耐性が大切なこと、人間関係の中で成長していくこと等の泥臭い説明とどのような人材像を求めているか」を熱く語った。その後、「正式に応募して下さいますか?」と問いかけたものだ。「会社説明会」なのだから、最初からポジティブ情報に加え、ぼろというか自然体をみせること。プレゼンテーターを通じて、会社を評価頂くことに他ならない。余談だが、地方局TVに説明会の様子で、筆者が複数回出たことがある。よく言えば活気があるブースだったのだろう。だからこそ、月並みないい方ではあるが、求職者の方にも、誠実さや熱い気持ちが伝わっただろうと自負している。
そして、地方中小企業であるから、新卒や男性に拘らないことも考えていた。今でいう卒業後3年までを新卒扱いにするしないは関係なく、“生涯現役時代”でできる仕事になるという点で幅広く「候補者群」の間口を広げた。
地方中小企業の人材戦略の要である“採用”については、“売り手市場”であることは前提であり、載せるべき情報媒体には載せるが、最終的にスキマを縫うというか、工夫をするようになった。そこでは、新卒の場合は男性層ではなく、女性層を狙い、力のある販売スタッフは短時間パートで厚遇しながら、元中州のママさんを採用した。さらには、自社にお勤めのご主人が病で倒れ、途方に暮れておられる奥様(それまでホームセンターで扶養の範囲で働いておられた主婦)を準社員として採用進言を行った。もう20年以上のベテラン販売スタッフになられている。マネジメント層は男性層を念頭においたが、あくまで中途採用展開で価値観の共有ミーティングを繰り返したり、あるいは経営トップが口説いてきた。筆者がオーナーから33歳のときに“一緒にやらないか?”と熱くお誘いを頂いたように。結局、最近の流行言葉で言えば、多様性のある採用をやってきたと自負している。
以上の点から、冒頭にあるような大企業の採用に感じるような違和感(ある意味、贅沢な土俵でのもったいないアンマッチ)を感じる暇が少なかった。
その当時から比べるまでもなく、労働力人口減少は進み、時間外残業や有給休暇取得、育児休業、介護休業、労働規制強化下地方中小企業の採用は経営トップなり、No2が出て行くべきだと筆者は信じている。今こそ、経営層が「我が社は人材成長企業!」という信念を持って、“ホワイト”企業としての人事処遇諸制度改革や改善を進め、その上で、求職者を口説く前提で、最適な採用手段を考えるべきだろう。
そのために具体的にやるべき点は次の5つと考えている。
1)自社従業員の男女毎5歳刻みでの年齢毎での要員状況、資格者状況を把握すること
※言うまでもなく経営戦略と人材戦略のすり合せの起点となる。
2)労働力人口減少、労働規制強化下で多様性対応の人事方針を決めること
3)生産性改革(利益向上と従業員の豊かさが連動する経営情報の開示を含む)
4)生涯現役制度、有期から無期契約のキャリアアップ対応の人事制度を構築すること
※現役世代の有給休暇取得、育児・介護休業の穴埋めはシニア世代で代替。また、
免許や資格が必要な業種によっては健康年齢が高まり、やる気のある高年齢者の
取り合いが始まることへの対応を急ぐこと。
5)公正公平、長所加点主義の人事評価・目標面接や現場を大切にする社風を作ること。
経営トップや経営層が率先垂範して、採用戦略に挑むこと・・・これが大企業にない採用上の最大の強みである。
中小企業診断士 谷口行利
(経営革新等認定支援機関 株式会社オリナス 代表取締役)
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